【リード文】
パソコン名の命名規則を整えることで、管理やサポートの手間は大きく減ります。第2回では、18年の現場経験から導き出した「理想的な命名フォーマット」を紹介します。連番、筐体区分、メーカーコード、年月、購入区分を組み合わせた実践的な設計方法をやさしく解説します。

第2回:理想的な命名規則フォーマット ― 現場で使える設計思想

はじめに ― 名前に“構造”を与える

第1回では、パソコン名の命名規則を軽視したときの混乱と、企業経営への影響を見てきました。今回は一歩進んで、どんな構成で名前を作れば混乱を防げるのか、その設計の考え方をくわしく解説します。命名規則とは、単にルールを作ることではなく、企業の資産を「時間軸で追える」ようにする設計作業です。名前の中に情報を込めることで、だれが見ても「意味のあるコード」として機能します。

理想的な命名フォーマットの全体構成

私が18年の現場経験を通じてたどり着いた理想的な命名フォーマットは、次のような構成です。

【構成例】
001DN2509A

左から順に、連番筐体区分メーカーコード年月コード購入区分の5つを並べます。これによって、どの会社でも統一感が生まれ、どの端末がいつ・どのように導入されたのかが一目でわかります。

1. 連番 ― 履歴を残す“軸”

連番は命名の最初に置くのが理想です。理由は、台帳やフォルダ、ログなどのソート順をそろえやすくするためです。たとえば「001」から始め、桁数を固定しておくと、台数が1000台になっても見やすく整理できます。途中で欠番が出ても再利用はせず、欠番そのものを履歴として残します。欠番は「管理が続いている証拠」です。特に監査や資産追跡では、この“残す文化”が信頼につながります。

2. 筐体区分 ― D(デスクトップ)か N(ノート)か

つぎに、端末の種類を一文字で表します。Dはデスクトップ、Nはノート、Tはタブレット、Sはサーバーなど、会社ごとに定義します。これにより、どの現場にどの機種が配備されているかが一覧で把握できます。修理やリプレイスの優先順位づけもスムーズになり、ITサポートが迷いません。

3. メーカーコード ― 製品系統を識別する

メーカーの頭文字を使い、NECなら「N」、Lenovoなら「L」、Dellなら「D」、HPなら「H」というように付けます。型番よりもわかりやすく、同一メーカーでの入れ替えにも対応しやすいのが特徴です。メーカー情報を含めることで、保証対応やドライバー管理も効率的になります。

4. 年月コード ― 導入時期をひと目でわかるように

年月コードは「YYMM」の4桁で表します。たとえば2025年9月導入なら「2509」です。ここを見れば、どの時期に導入されたPCかがすぐにわかり、リースや保証の管理も容易になります。年月が入るだけで、IT資産の“時間軸”が見えるようになります。特にパソコン台帳と組み合わせると、更新サイクルの設計やコスト分析にも役立ちます。

5. 購入区分 ― 新規か中古かを区別する

最後の一文字で、購入形態を示します。新規なら「A」、中古なら「B」、自作なら「C」、その他レンタルなどは「D」として区分します。これにより、導入経路がひと目でわかり、保守対応や在庫管理も簡単になります。シンプルですが、この1文字が“会計・管理・技術”の全側面で役立ちます。

フォーマットを使うことで得られる効果

この5要素を組み合わせた命名規則を運用することで、次のような効果が得られます。まず、IT資産管理が正確になります。名前そのものが情報をもっているため、Excel台帳や管理システムに依存しすぎずに、現場で即判断できます。また、トラブル発生時には「どの時期に、どのロットのPCか」がすぐにわかるため、セキュリティインシデント対応が圧倒的に早くなります。

さらに、経営効率の面でも効果は大きいです。パソコン名を見ただけで、老朽機やリース期限がわかるようになり、経営者が現場の資産状況を数字で把握できるようになります。命名規則はIT担当者だけでなく、経営層にとっても「判断を早める情報設計」と言えます。

運用上のポイントと注意点

フォーマットを作っても、運用が続かなければ意味がありません。そこで大切なのは「誰が、いつ、どうやって名前を付けるか」を明文化することです。たとえばPC購入後、セットアップ担当が台帳登録と同時に命名を行うようにルール化します。これを繰り返すことで、自然と社内文化になります。

また、命名規則を変えるときは、全社で一斉に行わないようにします。段階的に新ルールを導入し、旧ルールのままの資産にはタグを付けて識別します。無理のない移行こそ、継続運用のカギです。

まとめ ― 命名規則は「見えない設計図」

命名規則とは、単なるネーミングではなく「企業の資産を整理し、未来へつなぐ設計図」です。連番で歴史を残し、年月で時を刻み、購入区分で経路を記録する。この一つひとつの文字に意味を込めることで、IT資産が生きた情報になります。名前の規則が整うと、現場の混乱が減り、経営の判断も早くなります。

次回(第3回)は、この命名規則を実際にどう運用し、社内台帳やクラウドシステムにどう統合していくかを紹介します。ITサポートやDX推進の現場で「すぐ使える実装方法」をお伝えします。