まず、SharePoint Onlineの同時編集がどんなしくみかをおさえておきましょう。
同時編集は、ひとつのファイルをSharePoint OnlineやOneDrive for Businessにおき、そこにアクセスできる人が、同じタイミングで開いて編集できるという機能です。だれかが入力した内容がほぼリアルタイムでほかの人の画面にもひょうじされるため、「最新版どれ問題」がぐっとへります。
ただし、「SharePoint Onlineに置いたから自動で同時編集できる」というわけではありません。きちんと動かすためには、いくつかの前提条件があります。ファイルがSharePoint OnlineやOneDrive for Businessに保存されていること、新しいOffice形式のファイルであること、Excelなどのバージョンがあたらしく自動保存が使えること、そしてファイルに対して編集できる権限が付いていることなどです。
この中のどれかひとつでも条件をみたしていないと、「読み取り専用」になったり、ひとりは編集できるのにべつの人はできないといった中途はんぱな状態になります。この記事では、この前提条件をわかりやすく分解し、「どこからチェックすればよいか」を順番に見ていきます。情シス担当のかたが、社内からの質問に自信をもってこたえられるようになることをねらっています。
SharePoint Onlineの同時編集ができない主な原因5つ
SharePoint Onlineで同時編集ができないとき、多くのケースでは理由がはっきりしています。よくあるものをまとめると、おおきく5つに分けられます。ひとつめは、ファイル形式が古いExcel形式のままになっているケースです。ふたつめは、保存場所やファイルの開き方がバラバラで、だれかがローカルにコピーして編集しているケース。みっつめは、ExcelやOfficeのバージョンが古かったり、自動保存の設定がそろっていないケースです。
よっつめは、SharePoint Online側の権限や共有設定の問題です。ある人は編集権限があるのに、ある人は閲覧だけになっていると、同じファイルを開いていてもできることがちがってきます。さいごに、ファイルサイズやファイル名、ネットワーク環境など、しくみの制限ぎりぎりで使っているために動きが不安定になるケースがあります。
まずは自分の現場ではどのパターンが起きていそうか、だいたいのあたりをつけることが大事です。ここから先の章では、それぞれの原因をもう少しくわしく見ていきながら、いますぐためせる対処方法を紹介します。
原因1:ファイル形式(.xlsなど)が原因で同時編集できないケース
SharePoint Onlineで同時編集をするには、ファイル形式がとても重要です。とくにExcelの場合、古い形式である「.xls」のままになっていると、SharePoint Online上に保存されていても同時編集はできません。同時編集に対応しているのは、「.xlsx」「.xlsm」「.xlsb」といった新しい形式です。これは、Excelの中身の保存のしかたが古い形式とあたらしい形式で大きくちがうためです。
現場では、むかしから使っている集計ファイルやテンプレートがそのまま「.xls」でのこっていることがよくあります。このファイルをそのままSharePoint Onlineにアップロードして、「ここから同時編集しましょう」と案内してもうまく動かないので、「SharePoint Onlineがおかしいのでは」と思われてしまいやすいポイントです。
たいおうとしては、まず対象のファイルをExcelで開き、「名前を付けて保存」から「.xlsx」形式で保存しなおします。このとき、同じ場所に新しいファイル名で保存し、「これからはこのファイルを使ってください」と社内に案内するとスムーズです。古い「.xls」のほうは、誤って開かれないように「アーカイブ」フォルダに移動しておくとまちがいがへります。
マクロ付きのファイルの場合は、「.xlsm」形式にしておけば、マクロをいかしつつ同時編集の条件もみたしやすくなります。ただし、マクロの内容によっては同時編集と相性がよくない場合もあるので、その場合はマクロ部分を見直すか、同時編集用のファイルとマクロ実行用のファイルを分けるとよいでしょう。
原因2:保存場所や開き方の違いで同時編集できないケース
ファイル形式が正しくても、保存場所や開き方がバラバラだと同時編集はうまく動きません。SharePoint OnlineやOneDrive for Businessに保存したファイルでも、いったんローカルにダウンロードしてから編集している人がいると、その人は「べつのコピー」をいじっていることになります。そのあいだにだれかが元のファイルを更新しても、ローカル側には伝わらないので、あとで上書きしてしまうおそれもあります。
同時編集を正しく使うには、「必ずSharePoint Onlineの画面からファイルを開く」というルールを決めることが大切です。ブラウザから直接開く方法でもよいですし、「アプリで開く」をえらんでデスクトップ版のExcelで開いてもかまいません。ただし、エクスプローラーで見える「同期フォルダ」の中のファイルをそのまま開くばあいは、OneDrive for Businessの同期状態がわるいと更新がおくれることがあります。トラブルが多い現場では、最初はブラウザから開く方法にしぼって運用したほうが安心です。
また、「ローカルにコピーして、名前を変えてから編集する」というくせがのこっている人も少なくありません。こうした運用をつづけていると、同時編集どころか、どれが最新版なのかもわからなくなってしまいます。SharePoint Onlineを使ういみを説明しつつ、「最新版は必ずここにある」という定位置を決めることで、同時編集もすんなり使いやすくなります。
原因3:Excel/Officeのバージョンや自動保存設定が原因のケース
同じSharePoint Onlineのライブラリにあるファイルでも、人によって同時編集できたりできなかったりする場合は、ExcelやOfficeのバージョンちがいがひそんでいることが多いです。Microsoft 365のあたらしいExcelや、ブラウザ版のExcel(Excel for the Web)は同時編集にしっかり対応していますが、古い買い切り版のOfficeだと同時編集の機能がじゅうぶんでないことがあります。
情シス担当としては、まず社内のOffice環境がどうなっているかを整理するところから始めるのがよいでしょう。Microsoft 365でライセンスをそろえているのか、一部だけ古いバージョンがのこっていないか、ブラウザ版の利用をゆるしているかどうかなどを確認します。そして、「同時編集はこのバージョン以上ならOK」「古いバージョンの人はブラウザから開く」というように、かんたんなルールにして伝えるとよいです。
あわせて、自動保存の設定もポイントになります。デスクトップ版のExcelでは、ウィンドウの左上に「自動保存」のスイッチがあります。これがオンになっていないと、同時編集のつよみであるリアルタイムな保存がうまく働きません。最初に同時編集の説明をするときに、自動保存のボタンの場所と意味をスクリーンショットつきで共有しておくと、あとからの質問がかなりへります。
原因4:SharePoint Onlineの権限・共有設定が原因のケース
SharePoint Onlineでは、だれがどのファイルを見られて、どこまでさわれるかを細かく設定できます。この権限設定が同時編集に大きくかかわってきます。たとえば、あるユーザーが「閲覧のみ」の権限になっていると、その人はファイルを開いても編集できません。べつの人は「編集権限」があるので書きこみができる、といった状態がかんたんに起きます。
まずは、ファイルがおいてあるSharePoint Onlineのサイトに、フルコントロールできるアカウントでサインインします。そして、「サイトの権限」から、対象のドキュメントライブラリに対してどのグループがどの権限を持っているかを確認します。編集してよいメンバーがみんな「編集」かそれ以上の権限になっているか、だれかだけ「閲覧」になっていないかをチェックしましょう。
また、ファイルやフォルダ単位で個別に権限を変えていると、親のサイトとはちがう状態になっている場合があります。とくに、むかし一時的に共有したファイルなどは、「この人だけ編集可」といったピンポイントの設定になっていることもあります。そうした部分を整理し、「このチームのメンバーは全員このフォルダを編集できる」といったシンプルな権限にそろえていくと、同時編集にともなうトラブルもへっていきます。
社内に向けては、「SharePoint Onlineで同時編集を使うためには、編集権限がひつようです。編集できない場合は情シスに連絡してください」とひとことそえておくと、ユーザーも原因をイメージしやすくなります。
原因5:ファイルサイズ・ファイル名・ネットワーク環境などその他の制限
ここまでの原因にあてはまらないときは、SharePoint Onlineやネットワークの制限が影響していることがあります。たとえば、ひとつのファイルがとても大きいと、ひらくのに時間がかかったり、編集内容の同期がおくれたりして、「誰かが編集中」の表示が長くのこることがあります。最近のSharePoint Onlineではかなりおおきなファイルも扱えますが、現実的には、必要以上に画像をはりつけた巨大なExcelやPowerPointはさけたほうが安心です。
ファイル名やフォルダのながさも見直すポイントです。階層をふかくしすぎてパスがとても長くなると、うまく保存できないケースが出てきます。とくに、過去からコピーしてきたフォルダ構成をそのままSharePoint Onlineに移した場合は、フォルダ名とファイル名の合計がかなり長くなっていることが多いので注意が必要です。フォルダの段をへらしたり、似たような名前を整理したりするだけでもトラブルがへります。
ネットワーク環境も同時編集の体験に影響します。社外からVPN経由でアクセスしている人や、回線がふあんていな拠点からアクセスしている人は、保存や同期に時間がかかり、そのあいだに編集の競合が起きやすくなります。その場合は、できるだけ安定した回線を使ってもらうか、いちどに編集する人数をしぼるなどの運用面でのくふうも考える必要があります。
SharePoint Onlineの同時編集トラブルを防ぐための運用ルールとチェックリスト
ここまで見てきた原因をふまえると、SharePoint Onlineの同時編集を安定して使うためには、技術的な設定だけでなく、日々の運用ルールをととのえることがとても大事だとわかります。まずは、「同時編集するファイルは、必ず新しい形式でつくる」「古い.xlsのファイルは、見つけたらその場で.xlsxに変換する」といったシンプルなルールを決めるところから始めるとよいでしょう。
次に、「ファイルは必ずSharePoint Onlineのこのライブラリから開く」「ローカルにコピーして編集しない」といった、ひらき方のルールを明確にします。最初は、「ブラウザから開くことを標準にする」と決めてしまったほうが、ユーザーも迷いにくくなります。そのうえで、必要におうじて「アプリで開く」の使い方を教えていくとスムーズです。
さらに、社内のOffice環境を整理し、「同時編集をちゃんと使えるバージョン」をそろえていくことも重要です。新しいバージョンに切り替えるタイミングで、「自動保存をオンにしておく」「保存ボタンを連打しなくてもだいじょうぶ」といったポイントもいっしょに伝えると、ユーザーの不安もへります。権限設定については、「この部門のメンバーはこのフォルダを編集できる」という単位で、できるだけわかりやすく整理しておくと、あとからの問い合わせにも対応しやすくなります。
情シス担当としては、これらのポイントをA4一枚くらいの簡単なガイドにまとめ、「同時編集のつかいかた」として配布しておくと効果的です。画面のキャプチャを少し入れながら、「ここを見ればだいたいのことはわかる」という資料を用意しておくと、毎回いちから説明しなくてもすむようになります。
よくある質問(FAQ)
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QSharePoint Onlineに保存すれば、必ず同時編集ができるのでしょうか?
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Aいいえ、SharePoint Onlineに保存しているだけでは同時編集はできません。新しいOffice形式(.xlsxなど)になっていること、ExcelやOfficeのバージョンが対応していること、自動保存が使えること、そして編集権限が付いていることなど、いくつかの条件がそろってはじめて同時編集が正しく動きます。
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Q古い.xlsファイルは、すべて.xlsxに変換したほうがよいですか?
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A同時編集を前提に使うファイルについては、できるだけ早めに.xlsx形式へ変換することをおすすめします。特に、よく使う集計表やテンプレートは、変換しておくとトラブルがへります。使わない古いファイルは「アーカイブ」フォルダに移動するなどして、現場でまちがえて開かれないようにしておくと安心です。
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Q社内に古いExcelを使っている人がいて同時編集できません。どう案内すればよいですか?
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Aまずは、Microsoft 365など新しいバージョンへの切り替えを検討してもらうのが理想です。それがすぐにむずかしい場合は、「ブラウザからSharePoint Onlineにアクセスして、Excel for the Webで開いてもらう」方法を案内するとよいでしょう。ブラウザ版であれば、古いデスクトップ版よりも同時編集との相性がよいことが多いです。
まとめ:SharePoint Onlineの同時編集を安定して活用するためのポイント整理
SharePoint Onlineの同時編集は、うまく使えば「最新版どれ問題」やメール添付のわずらわしさを大きくへらしてくれる強力な機能です。一方で、ファイル形式が古かったり、保存場所やひらき方がバラバラだったり、Excelのバージョンや権限設定がそろっていなかったりすると、「読み取り専用になる」「人によって動きがちがう」といったトラブルが起きやすくなります。
この記事で取り上げた5つの原因、つまりファイル形式、保存場所と開き方、Excelのバージョンと自動保存、SharePoint Onlineの権限、そしてファイルサイズやネットワークなどの制限をおさえておけば、多くのトラブルは原因をしぼりこみやすくなります。原因が見えれば、たいおうもむずかしくありません。古いファイルは変換し、開き方のルールをきめ、Office環境をそろえ、権限を整理し、むりのないサイズと構成で運用していくだけです。
情シス担当のあなたがこれらのポイントを社内にていねいに伝えていけば、「SharePoint Onlineはよくわからない」「なんだかこわい」というイメージもすこしずつ変わっていくはずです。そして、同時編集が当たり前に使えるようになったとき、会議前のばたばたや、ファイルの取りちがえによるヒヤリとする場面はかなりへります。この記事の内容をチェックリストのように使いながら、自社の環境にあわせた運用ルールをつくっていってください。